私は家族性地中海熱(FMF)と診断されるまでに、1年4ヶ月という時間がかかりました。
その間、医師たちが疑い、検査し、除外していった病気が数多くあります。
虫垂炎、細菌感染症、心内膜炎、悪性腫瘍、菌血症、膠原病——。
原因不明の高熱が続き、検査をしても「異常なしです」と言われるたびに、自分の辛さが否定されているような気持ちになることもありました。
しかし、振り返ってみると「検査→異常なし(除外)」の積み重ねこそが、FMFの診断へ繋がる重要なプロセスだったのだと感じます。
この記事では、「FMF診断に至るまでに疑われ、除外されていった病気」について、症状や検査結果を時系列で整理しました。
同じように原因不明の発熱や炎症を繰り返している方の参考になれば幸いです。
※本記事は筆者の実体験をまとめたものです。医学的助言を目的とするものではありません。症状や治療については医療機関にご相談ください。
この記事で分かること
この記事の内容をまとめると、以下のようになります。
- FMF診断前に疑われた病名(虫垂炎・細菌感染症・心内膜炎・膠原病など)
- それぞれの検査内容・疑われた病名と、除外に至った経緯
- 「異常なし」という結果が積み重なる意味
- 診断は「消去法」である、という当事者としての実感
それでは、まずは一回目の発作時から順に振り返っていきます。
初回発作で最初に疑われた「虫垂炎」
初回発作は、40.3℃の高熱と激しい腹痛が突然現れることから始まりました。
血液検査の結果は、CRPが9.19 mg/dL、白血球(WBC)が12,060 /μLで、どちらも基準値を大きく超えており、明らかに体の中で炎症が起きていることを示す数値でした。

腹痛を伴う発熱と炎症反応の上昇で、医師が最初に疑ったのは「虫垂炎などの急性腹症」ですが、虫垂炎の典型的な所見である右下腹部痛への移動や、マックバーニー点の圧痛はありませんでした。
「全身状態も比較的安定しており、緊急性は低い」として、そのまま経過観察となりました。
炎症反応は確かにある、しかし原因は断定できないという釈然としない結論に、不安な気持ちで帰宅したのを覚えています。
その後、発熱や腹痛などの症状は数日で自然に軽快し、結果的に虫垂炎は除外されたことになります。
次に疑われた「細菌感染症」と、抗菌薬が処方された理由
月に一度のペースで高熱を繰り返し、次に疑われたのは「細菌による感染症」です。
細菌が体内で増殖しているのであれば感染部位があるはずなので、原因を特定するため、体幹部の単純CTが撮影されました。
腹腔内や胸腔内に膿瘍(のうよう、うみの塊)がないか、炎症の発生源となる部位がないかをスクリーニングするためです。

結果として、CT画像では明らかな異常は見当たらず、手渡された検査結果の用紙には「診断:熱源と思われる病変ははっきりしません」と書かれていました。
しかし、「何らかの感染症の可能性がある」という医師の判断で、
- オーグメンチン配合錠250RS 375mg
- サワシリン錠250 250mg
という二種類の抗菌薬(抗生物質)が処方されました。いずれも細菌感染症に対して広く使われる薬です。

当時、医師から具体的な疑い病名の説明はありませんでした。
ただ、この時点での症状(40℃前後の発熱・高いCRPとWBC)と単純CTという検査の組み合わせから振り返ると、一般的には以下のような疾患が候補として挙がりやすい状況だったと考えられます。
| 疑われやすい病名 | CTで確認された内容 | 評価 |
|---|---|---|
| 肺炎・気道感染症 | 活動性肺炎を疑う異常影なし、胸水なし | 除外 |
| 腹腔内感染(腸炎・憩室炎など) | 消化管に粗大病変なし、腹水なし、腹腔内臓器(肝・胆・膵・脾・副腎・腎)に明らかな異常なし | 除外 |
| 腎盂腎炎・尿路感染症 | 腎に明らかな異常なし(+尿沈渣・尿一般検査も同日実施) | 除外 |
| 悪性リンパ腫・腫瘍熱 | 縦隔・肺門・上腹部・骨盤内のリンパ節腫大なし、甲状腺異常なし | 除外 |
指示通りに薬の服用を始めましたが、1日半後には症状が自然に軽快。
医師の見立ては「細菌感染にしては治りが早すぎるし、抗菌薬が効いたとも考えにくい」というものでした。(※ここまで急速かつ自然な軽快を何度も繰り返すのは典型的ではないということです)
こうして、細菌感染症も除外されていきました。
繰り返す発作で始まった、命に関わる病気の除外
4ヶ月連続で40℃前後の高熱が繰り返されたことで、医師の視点は変わっていきます。
「一過性の感染症ではないかもしれない」と判断されたとき、次のステップは「見逃してはいけない重病を否定する」ことでした。
血液培養検査:血液の中に菌がいないかを調べる
血液培養検査とは、採取した血液を専用の培地で数日間培養し、血液中に細菌や真菌が存在しないかを確認する検査です。
血液中に菌が侵入した状態(菌血症)や、それが全身に広がった状態(敗血症)を調べるために行われます。培養には数日かかるため、結果が出るまでの期間が精神的にもつらい検査のひとつです。

結果は陰性。血液中に菌は見つかりませんでした。
心臓エコー:心内膜炎の否定
原因不明の発熱が繰り返される場合、感染性心内膜炎の可能性を除外する必要があるとされています。
感染性心内膜炎とは、心臓の弁などに細菌が付着・増殖し、疣贅(ゆうぜい)と呼ばれる塊を形成する病気です。放置すると弁の損傷や塞栓症など、命に関わる合併症につながるとされています。
心臓エコー検査では、超音波を使って心臓の形や動き、弁の状態をリアルタイムで確認します。


検査の結果、心臓に目立った異常はありませんでした。
検査結果の用紙には「経胸壁心臓超音波検査では感染性心内膜炎を完全に否定できません」という技師所見もありましたが、医師が他の検査(血液培養など)の結果とあわせて総合的に判断した結果、「明らかな心内膜炎の所見はない」という診断となりました。
造影CT:隠れた腫瘍や膿瘍を探す
造影剤を用いたCT検査では、血管や内臓の細部まで詳しく確認することができ、通常のCTでは映りにくい小さな腫瘍、深部の膿瘍、リンパ節の腫れなどを検出するために行われます。
悪性腫瘍による腫瘍熱(がんが引き起こす発熱)の可能性を除外する、という意味でも重要な検査です。

結果は、腫瘍も膿瘍も見当たらず。
診断は「熱源となりそうな明らかな病変は指摘できません」と書かれていました。
この3つの検査が揃って陰性となったことで、「すぐに命に関わる緊急事態ではない」ということが、ようやく証明されました。
安堵感はある一方、「じゃあ、この40℃の熱を繰り返す原因は何なのか」という疑問が深まる段階でもありました。
膠原病・慢性感染症の否定:数十項目に及ぶ血液検査
重篤な感染症が除外された後、診断の候補は「免疫が関係する病気」へと移っていきました。
膠原病とは、自己免疫の異常によって全身の臓器に炎症が起きる病気の総称です。全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチ、シェーグレン症候群など、数多くの疾患が含まれます。
いずれも発熱や炎症反応の上昇を伴うことがあり、原因不明の発熱との鑑別が必要とされる疾患群です。
当時の診療明細書を見返すと、一度の受診で以下のような項目が一気にオーダーされていました。
| 疑われた病名 | 主な検査項目 | 結果 |
|---|---|---|
| 全身性エリテマトーデス(SLE) | 抗DNA抗体、抗核抗体(ANA)、抗Sm抗体、血清補体価(CH50) | 陰性 |
| シェーグレン症候群・MCTD | 抗SS-A/Ro抗体、抗RNP抗体 | 陰性 |
| 関節リウマチ | リウマトイド因子(RF)、抗シトルリン化ペプチド抗体、MMP-3 | 陰性 |
| ANCA関連血管炎 | ANCA定性、MPO-ANCA | 陰性 |
| 抗合成酵素症候群(炎症性筋疾患) | 抗ARS抗体 | 陰性 |
| 成人スティル病・全身性炎症疾患 | フェリチン、CRP、ESR | 特異的な異常なし |
| 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など) | TSH、FT4、FT3 | 甲状腺機能正常 |
| 結核(潜在性結核を含む) | 結核菌特異的インターフェロンγ産生能 | 陰性 |
| B型肝炎・C型肝炎 | HBs抗原、HCV抗体定性 | 陰性 |
| HIV感染症 | HIV-1・2抗体定性 | 陰性 |
| 免疫異常・免疫不全 | 免疫グロブリン(IgG・IgA・IgM) | 正常 |
これだけの病名を一度に疑われている、と当時は理解していませんでした。
というのも、明細書に並ぶのは難しい「検査項目の名前」だけで、それが何を調べているのか、どんな病気の検査なのかは、後になって自分で調べて初めて分かったことです。

自己抗体や免疫、結核などの検査は保険点数も高く、この日の支払いは3割負担で15,560円でした。
しかし、これだけの検査を経て、返ってきた答えは全項目「異常なし」でした。
膠原病の特徴的な抗体は検出されず、甲状腺機能も正常、肝炎・HIVも陰性、結核の反応もなし。不可解な結果に、当時の私は戸惑うことしかできませんでした。
「異常なし」が積み重なってわかったこと:診断は消去法だった
当時は「今回も異常なしです」と告げられるたびに、複雑な気持ちになりました。
よかった、という安堵と同時に「では、なぜこんなに辛く、苦しいのか」という感覚が混在していました。
自分の辛さが、検査結果に反映されない。
それがこの期間の、もっとも孤独な部分だったかもしれません。
ただ、今になって振り返ると、あの「異常なし」の積み重ねこそが、FMFという希少疾患を絞り込むために必要なプロセスだったと分かります。
FMFは、現在のところ単独で確定診断できるような特異的血液マーカーは存在しないとされています。そのため診断は、他の疾患を一つずつ除外していく「消去法」が中心となります。
SLEでも、関節リウマチでも、血管炎でも、結核でも、HIVでもなかった。
可能性のある病気を一つずつ潰していった先に、最後に残った選択肢——それが「家族性地中海熱」でした。
FMF診断に至った経緯については別記事で詳しく記録していますが、血清アミロイドA蛋白(SAA)の上昇をきっかけにFMFという病名が浮上し、コルヒチン(FMFの治療薬)の服用や遺伝子検査などを経て、最終的に「臨床症状からFMF典型例と診断」となりました。
おわりに
原因不明の炎症を繰り返し、「どこも悪くない」と言われ続けている方へ。
「異常なし」という検査結果は、「今の医学で疑うべき重病が一つ消えた」という貴重な一歩です。
その積み重ねの先に、きっと本当の診断があります。
自分の辛さが検査結果に反映されず、「誰にも信じてもらえないのではないか」「仮病だと思われるんじゃないか」と不安な日々を過ごしました。
医師に「気持ちの問題」などと言われ、深く傷ついたこともあります。
本当に気持ちの問題で熱が出るなら、誰よりも強い気持ちで「もう熱が出るのは嫌だ」と願っている私が発熱を繰り返すわけがないのに……。
それでも、根気強く検査を繰り返し、消去法の過程を経て、ようやく家族性地中海熱、そしてコルヒチンという薬の選択肢にたどり着きました。
この記事が、同じ迷路の中にいる誰かの参考になれば幸いです。
※本記事は筆者の実体験をまとめたものです。医学的助言を目的とするものではありません。症状や治療については医療機関にご相談ください。


