指定難病である家族性地中海熱(FMF)と診断され、コルヒチンの服用を継続する中で、私の生活は以前に比べれば随分と落ち着きを取り戻しました。突然の高熱に振り回されることが減り、今はある程度「普通の日常」を維持できています。
しかし、定期検査の日に「元気な自分」が病院へ向かっているとき、ふと「体調が良い日に検査を受ける意味はあるのだろうか」と考えたことがありました。
発作が落ち着いている時期の検査は数値に大きな変化が出ないことも多く、どこか手応えのなさを感じてしまうものです。
ですが、安定期を過ごす中で、この「平和な時のデータ」こそが自分の健康を長期的に支えるための重要な基盤なのだと気づきました。
この記事では、FMF当事者の視点から体調が良い時期に検査を受ける本当の価値や、正常値のデータを積み重ねる重要性について、私なりの考えをまとめました。
受診のたびに検査の意義を自問自答している方や、安定期の検査の目的を再確認したい方の参考になれば幸いです。
病院に行く日は「体調が良い」ことが多い
症状が安定している時期の通院では、多くの方が「検査日なのに、体調が良い」という経験をしたことがあるのではないでしょうか。
特にFMFは周期性の発作を繰り返す病気で、発作は突然やってきて、数日で去っていきます。そのため、数ヶ月前に決まった予約日が発作と重なることはなかなかありません。
せっかくなら「一番苦しい時の、きっと爆上がりしてる数値を観測したい」と思うこともありますが、実は「何もない時の数値」を確認することには、診断時とは全く別の、極めて重要な役割があるのです。
「正常値」が教えてくれること
現在、私はコルヒチンを毎日服用しています。この状況で受ける血液検査の目的は、FMF診断前の「炎症を探すこと」から、「炎症がしっかり抑え込まれているかを確認すること」に変わりました。
1. 薬が効いている「証拠」を受け取る
検査結果の紙に並ぶ「正常範囲内」の数字。それは、コルヒチンという薬が私の体の中で24時間365日、休まずに炎症の種を摘み取ってくれている証拠です。
- 薬の量は適切である
- 炎症がコントロールできている
その客観的な裏付けがあるからこそ、私は安心して毎日を過ごすことができます。
2. 自分の「ベースライン(基準)」を知る
血液検査の項目にはそれぞれ一般的な「基準値」がありますが、持病と長く向き合っていく上では「自分にとっての正常値」を知ることも大切だと感じています。
- 平熱時のCRP(炎症反応)は?
- 普段のWBC(白血球数)は?
- 発作時以外でSAA(血清アミロイドA)は上がっていないか?
この「ベースライン」が明確であればあるほど、発作が起きて数値が跳ね上がった時に「自分にとってどれだけ深刻な事態か」を判断できる材料になります。
SAA(血清アミロイドA)を測ることは「未来への投資」
以前の記事(血清アミロイドA蛋白とは?)でも詳しく触れましたが、FMFの管理において最も警戒すべきは、慢性的に炎症が続くことによる「AAアミロイドーシス」という合併症です。
本来なら分解されて体外へ排出されるはずの「SAA」というタンパク質が、炎症が長く続くことで処理しきれなくなり、その一部(断片)が「アミロイド」という分解されにくい不溶性の線維(ゴミのようなもの)となって、全身の臓器に沈着してしまう病気です。
ここで重要なのが、「自覚症状がなくても、炎症がくすぶっている可能性がある」という点です。
たとえ熱が出ていなくても、SAAが高い状態が続くと将来的に腎臓などの臓器にダメージを与える「アミロイド」という物質が蓄積してしまいます。
予約日の検査でSAAを測ることは、「今の苦痛」を測るためではなく、「10年、20年後の自分の臓器を守るための検診」なのです。
検査結果を「点」ではなく「線」で見る
私は日々の通院の中で、毎回の検査結果を単発のイベントで終わらせず、数年単位の「推移」として捉えるようにしています。

たとえば、上の画像のようにSAA(血清アミロイドA)が常に2.0未満で安定していることを確認し続けることは、今の私にとって「最良の健康診断」です。もし将来、何らかの理由で数値が動いたとしても、これまでの「平和な記録」という比較対象があるからこそ、冷静に次の対策を相談できるはずです。
検査結果が「ただの正常値」だったとしても、それが積み重なれば、自分だけの立派な「健康の証(エビデンス)」になります。
記録の積み重ねが診察の支えになる
こうした記録の積み重ねは、診察室での主治医とのやり取りにおいても大きな意味を感じています。
自分がつけてきた体調記録と目の前の血液検査の結果が重なることで、主治医の話もより納得感を持って受け取れるようになり、「今回も数値は安定していますね」という言葉をかけてもらうたびに、今の治療が自分に合っていることを再確認できます。
「特に変わりがない」という状態を、データと共に医師と確認する。それは決して無駄な時間ではなく、現在の安定を再確認するための、とても大切なプロセスなのだと感じています。
自己負担額と「医療費助成制度」の役割
私の場合、定期検査時に支払う自己負担額は約3,000円です。
これを高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれかもしれません。
しかし、もしこの検査を全額自己負担(10割)で受けるとしたら、約15,000円がかかります。持病のある私たちがこうして定期的に、無理のない範囲で検査を続けられるのは、健康保険という制度とともに、指定難病に「医療費助成制度」という大きな支えがあるからです。
通常は3割負担である医療費が、指定難病医療受給者証があることで2割負担に軽減されている。この「1割の差」が、これから数十年は続く通院生活において本当に大きな助けになっています。
私が医療費助成(指定難病医療受給者証)を申請した時の流れや、当事者として感じたメリットについてはこちらの記事で詳しくまとめています。申請を迷っている方の参考になれば幸いです。
窓口で支払う3,000円は、単なる「検査代」ではありません。
制度に守られながら、大きな合併症を未然に防ぎ、今の平穏な日常を継続するための「ライフラインの維持費」のようなもの。そう捉えるようになってからは、この費用を自分自身の未来に対する納得感のある投資として受け止められるようになりました。
まとめ:血液検査は「安心」を買うためのルーティン
難病と共に生きる私たちにとって、定期通院の血液検査は、もはや義務感で受けるものではありません。
「今の健康を維持できていることを確認し、未来の自分に安心を届けるための投資」
そう捉え直したことで、検査への向き合い方が変わりました。
たとえ予約当日に「元気すぎて、今日検査を受ける意味はあるのかな?」と一瞬迷ったとしても、その先に待っている「正常値」には大きな価値があります。
これからも、この「平和な数字」をコツコツと積み重ねていくことで、見えない病気と上手に、そして前向きに付き合っていきたいと思っています。
定期通院の血液検査が、ただの「ルーティン」から「未来の自分への投資」へ、捉え方が変わるきっかけになれば幸いです。

皆さんの検査結果に、今日も平和な数字が並んでいることを願っています。



